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Sunny Side Beach another place —”The Driftwood Teacher”「流木の先生」

その浜を知っている人は、街でも少ない。

観光客が行き交うメインのビーチから海岸線を北へ十五分ほど歩くと、突然視界が開けて、人気のない静かな砂浜が現れる。流木が点在して、貝殻が散らばって、潮の匂いがすこし濃い。

地元の人たちはここを「あっちの浜」と呼んでいた。

ノートとペンだけ持って、ソフィアはここへよく来た。
小説を書いているわけでも、日記をつけているわけでもない。

ただ、頭の中がうるさいとき、ここへ来てノートを開くと、不思議と言葉が出てきた。

その日も、大きな流木に背をもたれて座っていると、少し離れたところに老人がいることに気づいた。
折りたたみの椅子に腰かけて、海を見ている。手には何も持っていない。ただ、じっと水平線を眺めていた。

しばらくして、老人がこちらに気づいて、軽く手を挙げた。

「よく来るのかね。」

「ときどき。あまり人が来ないので。」

「そうだな。わしもそれが好きでね。」

老人は元教師だと言った。
三十年以上、Sunny Side Cityの子どもたちに歴史を教えてきた。
退職してもう七年になる、と。

「ここへは、昔から来てるんですか。」

「授業がうまくいかない日に来ていた。波を見ていると、焦りが消えてな。次の日にはまた、なんとかなるような気がした。」

ソフィアは少し考えてから、聞いた。

「先生は、書いたりしないんですか。言葉とか。」

「書かんよ。」老人は笑った。「全部、波に預けてしまう。」

波に預ける、という言葉が、ソフィアの胸にすとんと落ちた。

帰り際、老人はぽつりと言った。

「書けないときは、書かなくていい。ここへ来て、波の音を聞けばいい。言葉は、逃げんから。」

ソフィアはノートを閉じて、しばらく海を見た。

何も書かなかった。それなのに、来た時よりずっと、軽い気持ちで浜を後にした。

帰り道、マルシェの前を通ると、カミラおばさんが店じまいをしているところだった。

「あっちの浜かい?」と聞かれて、ソフィアは少し驚いた。「顔でわかる」とカミラは笑った。