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Sunny Side Beach —”One Wave at a Time”「波の数だけ」

レオが砂浜に座るようになったのは、仕事を辞めてからだった。

辞表を出した日の夜、どこへ行くあてもなくただ歩いていたら、気づけばここにいた。
それからというもの、毎朝早くにビーチへ来て、波を眺めて、また家に帰る。それだけの日々が続いた。

何かを考えようとするたびに、波の音が思考をそっとさらっていく。それが、不思議と苦ではなかった。

ある朝、隣に小さな女の子が座った。六歳か七歳くらいだろうか。親の姿は見えない。

女の子は波を見ながら、小さな声で数を数えていた。

「…じゅうはち、じゅうく、にじゅう。」

「何を数えてるの?」レオが聞くと、

「波。百まで数えたら、パパが帰ってくるんだって。」

レオは何も言えなかった。

「あなたも、誰か待ってるの?」

少し間があった。

「……わからない。」

正直に答えると、女の子はふうん、と言って、また波を数え始めた。

しばらく二人で並んで、黙って海を見ていた。

波がひとつ来るたびに、女の子の声が小さく響く。その声がなぜか、レオの胸の奥の固まったものを、少しずつほぐしていくようだった。

百に近づいた頃、遠くから「エマ!」と呼ぶ声がした。

女の子は立ち上がって、砂を払って、駆け出す前にレオを振り返った。

「あなたも、百まで数えてみたら?」

そう言って、笑って走っていった。

レオはひとり残されて、波を見た。

「……ひとつ。」

小さく、声に出した。

しばらくして、パン屋の黒猫が砂浜をぶらぶらと歩いてくるのが見えた。
猫はレオのそばで足を止めて、海をじっと眺めてから、また来た道を戻っていった。

波はいつもと同じように、静かに寄せて、返していった。