MENU

Sunny Side Beach — “The Space Between Waves”「波と波のあいだ」

Sunny Side Beachに着いたとき、エマは少し驚いた。

街のカフェにもマルシェにも、どこかから音楽が流れていた。けれど、この浜辺には何もなかった。

聞こえるのは波の音だけ。

寄せて、引いて、また寄せる。

手紙には、こう書いてあった。

「波の音しか聞こえない浜辺」

エマは靴を脱ぎ、波打ち際から少し離れた砂の上に座った。

風が頬をなでた。遠くの海に白い帆が見えたが、近くには誰もいないようだった。

「それ、きれいな石だね」

急に声がして、エマは顔を上げた。

小さな女の子が立っていた。両手には、白や灰色の丸い石をいくつも抱えている。

「どれ?」

「あなたの足元の。青い線が入ってる」

エマが拾い上げると、確かに薄い青色の筋が一本走っていた。

「名前はあるの?」

「ルーシー。石じゃなくて、私の」

女の子は少し得意そうに笑った。

ルーシーは、毎週ここで石を拾うのだという。形のいいものだけを家に持って帰り、ほかは海に返す。

「どうやって選ぶの?」

「三つ波が来るまで持ってるの。まだ好きだったら、持って帰る」

「どうして三つ?」

「お父さんがそうしてたから」

それ以上の説明はなかった。

エマも青い線のある石を手のひらに乗せた。

一つ目の波。

ルーシーは黙って海を見ていた。

二つ目の波。

砂の上を小さな泡が走った。

三つ目の波。

エマは、石をそっと置いた。

「持って帰らないの?」

「うん。ここにある方が、似合う気がする」

ルーシーは頷いた。そして、海岸の向こう側を指さした。

「あっちにも浜辺があるんだよ。でも、こっちの道からは見えないの」

「秘密の浜辺?」

「そう。秘密なのに、みんな知ってる」

ふたりは笑った。

ルーシーが帰ったあとも、エマはしばらく海を見ていた。

静かだと思っていた。

けれど、耳を澄ませば、波と波のあいだには風があった。濡れた砂をすべる水の音があった。遠くで誰かの笑い声がした。

何もない場所なのではなかった。

何も足さなくていい場所なのだ。

エマは砂を払い、靴を手に取った。

次は、もうひとつの浜辺へ行ってみようと思った。

comment(コメント)

To comment

CAPTCHA