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Sunny Side Marche —”Tuesday Tomatoes”「火曜日のトマト」

毎朝、店を開ける前にベーカリーへ寄るのがカミラの習慣だった。
ジュリアンの焼きたてのパンをひとつ買って、それを食べながら屋台の準備をする。
それだけで、どんな朝でも悪くない気がした。

カミラのトマトは、マルシェで一番売れる。

毎週火曜日の朝、彼女は自分の畑で採れたトマトを木箱に並べる。
大きさもかたちもバラバラで、スーパーには並ばないような見た目だけれど、一度食べたら他のトマトが物足りなくなる、と常連客たちは口を揃えた。

カミラは七十二歳。もう何十年もここに立ち続けている。

その日、人混みの中に、見慣れない顔があった。
二十代くらいの青年が、トマトをひとつ手に取って、また戻して、またそっと持ち直して、値段を見てから静かに棚に返した。

「買わないのかい。」

カミラが声をかけると、青年は少し恥ずかしそうに笑った。

「ちょっと高くて。すみません、つい触ってしまって。」

「どこから来たの。」

「遠くから。仕事を探しに。でも、なかなか……。」彼は言葉を濁した。脇にはスケッチブックを抱えていた。

カミラはトマトをひとつ取って、青年の手に押し込んだ。

「食べていきな。」

「え、でも——」

「いいから。うちのトマトはね、腹が減ってる人間に食わせてこそ意味がある。」

青年はしばらく迷ってから、その場でトマトにかぶりついた。目を丸くして、それからゆっくりと笑顔になった。

「……おいしい。なんでこんなに。」

「愛情だよ。」カミラはあっさりと言った。「あとは、雨と太陽と、少しの運ね。」

青年はお礼を言って、人混みの中へ戻っていった。

その後ろ姿を見ながら、カミラは思った。昔、夫も同じ顔をしていた。街に出てきたばかりの頃、何も持っていなくて、それでも目だけは真っ直ぐで。

トマトを一個渡したら、翌週また来て、その次の週も来て、いつの間にか隣に立っていた。

木箱の中のトマトが、午後の日差しを受けてつやつやと光っていた。

火曜日のマルシェは、今日も変わらず、にぎやかに続いていた。