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Sunny Side Moon — “Under the Same Moon”「おなじ月の下」

Sunny Side Moonの夜には、街の人々は少しだけ早く仕事を終える。

年に一度、秋の澄んだ空に大きな月が昇る。その夜だけは、どこにいても同じ月を見上げるのが、この街のささやかな習慣だった。

エマが森の高台に着くと、草の上には小さな灯りが並んでいた。

誰かがレコードから流れるような静かな音楽をかけている。人々は持ち寄った飲み物を片手に、思い思いの場所で空を見上げていた。

見覚えのある顔が、いくつもあった。

ジュリアンは大きなかごにパンを詰めてきていた。カミラは「少しだけ」と言いながら、その上にトマトを山ほど並べている。

カフェのエドは、紙コップに温かい飲み物を注いでいた。

少し離れたベンチには、マリアが座っている。

「こんばんは」

エマが声をかけると、マリアは場所を空けてくれた。

「あら、また会ったわね」

ふたりが座ってしばらくすると、広場の方からやってきた青年が、近くの草にスケッチブックを置いた。

エマは、海辺ですれ違った顔だと気づいた。

青年は誰かを描くでもなく、まだ月の出ていない空を眺めていた。

「今日は描かないの?」

カミラが声をかけた。

「もう少し暗くなってから」と青年が答えた。

「それじゃ、パンでも食べて待ちなさい」

ジュリアンが小さなパンを渡した。

エドが飲み物を配り終えた頃、誰かが空を指さした。

「あ、出た」

木々の向こうから、大きな月が昇り始めていた。

さっきまでおしゃべりしていた人たちが、少しだけ静かになった。

エマはバッグから、あの手紙を出した。

最後の一行。

「そして、月が大きく見える夜」

誰が書いたのか分からない。

誰に宛てたものなのかも分からない。

それでも、書かれていた場所を一つずつ歩いてきた。

ベーカリーには、誰かのために焼かれたパンがあった。

浜辺には、持ち帰らなかった石があった。

森には、数えきれなかった灯りがあった。

そして今、カフェで見た人も、マルシェで出会った人も、同じ空を見上げている。

マリアが隣で言った。

「月って不思議ね。ひとりで見ていても、誰かと見ている気がする」

エマは静かに頷いた。

少し離れたところで、青年がようやく鉛筆を動かし始めた。

誰かが小さく笑い、風が草を揺らした。

エマは手紙を折り、丁寧にバッグへしまった。

明日、図書館に本を返そう。

そう決めた。

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